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熊本地裁厚生省と国会の責任を明確に認める

平成一〇年・第七六四号、同第一〇〇〇号、同第一二八二号、
平成一一年・第三八三号「らい予防法」違憲国家賠償請求事件

判決骨子

第一 本件の主要な争点

一 厚生大臣のハンセン病政策遂行上の違法及び故意・過失の有無

二 国会議員の立法行為の国家賠償法上の違法及び故意・過失の有無

三 損害

四 除斥期間

第二

一 厚生大臣のハンセン病政策遂行上の違法及び故意・過失の有無について(争点一)

患者の隔離は、患者に対し、継続的で極めて重大な人権の制限を強いるものであるから、少なくとも、ハンセン病予防という公衆衛生上の見地からの必要性(以下「隔離の必要性」という。)を認め得る限度で許されるべきものである。

らい予防法(以下「新法」という。)が制定された昭和二八年前後の医学的知見等を総合すると、遅くとも昭和三五年以降においては、もはやハンセン病は、隔離政策を用いなければならないほどの特別の疾患ではなくなっており、すべての入所者及びハンセン病患者について、隔離の必要性が失われた。

したがって、厚生省としては、同年の時点において、隔離政策の抜本的な変換等をする必要があったが、新法廃止まで、これを怠ったのであり、この点につき、厚生大臣の職務行為に国家賠償法上の違法性及び過失があると認めるのが相当である。

二 国会議員の立法行為の国家賠償法上の違法及び故意・過失の有無について(争点二)

  1. 新法は、六条、一五条及び二八条が一体となって、伝染させるおそれがある患者の隔離を規定しているが、これらの規定(以下「新法の隔離規定」という。) は、遅くとも昭和三五年には、その合理性を支える根拠を全く欠く状況に至っており、その違憲性が明白となっていた。
  2. 国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)が国家賠償法上違法となるのは、容易に想定し難いような極めて特殊で例外的な場合に限られるが、遅くとも昭和四〇年以降に新法の隔離規定を改廃しなかった国会議員の立法上の不作為につき、国家賠償法上の違法性及び過失を認めるのが相当である。

三 損害について(争点三)

原告らが被告の違法行為によって受けた被害のうち、共通性を見いだすことができるもののみを包括して賠償の対象とすることとし、慰謝料額を、初回入所時期と入所期間に応じて、一千四百万円、一千二百万円、一千万円及び八百万円の四段階とする。なお、認容額の総額は、十八億二千三百八十万円(うち慰謝料が十六億五千八百万円、弁護士費用が一億六千五百八十万円)である。

四 除斥期間について(争点四)

本件において、除斥期間の起算点となる「不法行為ノ時」は、違法行為の終了した新法廃止時と解するのが相当であり、除斥期間の規定の適用はない。

(永松健幹裁判長代読)